大胆な対談・第七部「漫画の原作ってなんだ?」

(辰)いよいよ第七部か、ここまで読んでる人はどのくらいいるのかなぁ。まぁ思ったより反響があるので我輩としてもしゃべりがいがあるというものだ。こんなに長くなるのならもうちょっと構成を考えて始めるべきだったね、まるたつ君。
(ま)な、なんですか!フレーム切ってもっと読みやすくしろって言いたいんですか?僕あれは嫌いなんです。小さいモニタだと見難くて。
(辰)まぁ、いいから先に進もう。たしか1985年か86年だったと思うが、当時ビッグコミックオリジナル編集長だった故・林洋一郎氏から呼び出しがかかったんだ。
(ま)また小学館ビル地下一階の「ジャパン」ですか?
(辰)いや、今度は「トップ」だよ。
(ま)記憶力が衰えてるってのに妙な事は覚えてるんですね。
(辰)うん、最近の事はすぐ忘れるのに昔の事はよ〜く覚えておるのだよ。
(ま)今日のランチはなんでした?
(辰)え〜と、焼肉だったような・・・イクラ丼だったような・・・
(ま)ま、まじですか?
(辰)ええい、五月蝿い!というわけで漫画の原作についてだ。その時、林さんが俺に見せたのがある放送作家が書いた漫画の原作シナリオだったんだよ。
(ま)あのぉ漫画の原作って具体的にどーゆーものなんですか?
(辰)いや、俺もそのとき初めて漫画の原作なるものを手にしたのだが、これは放送作家の作品らしくシナリオ形式だったよ。別に形式は何でもいいみたいで小説形式でも論文形式でもメモでもいいんだって。漫画形式じゃまずいだろうけど。
(ま)あたりまえじゃないですか!漫画の原作を漫画で描くのなら原作なんていらないじゃないですか。
(辰)50歳で子供が産まれてしまう商社マンが主人公の物語だったけど、自由に作り替えていいってんで登場人物の性別や年齢もかなり換えてなんとか漫画にしたんだよ。せっかく書いてあるものを勝手に変えていいのかなぁと思ったけど最終的に漫画で表現するんだから漫画家の好きなようにやっていいのだ!
(ま)それが家庭の事情ですね。
(辰)ああ、24ページの読みきりだったけどものすごく疲れたのを覚えてるよ。もらったシナリオ通りに描いたんじゃ面白くないんで通常の自分の作品よりもリキを入れたからね。
(ま)そのシナリオを書いたのがその後コンビを組む事になった西ゆうじ氏ですね。
(辰)うん、彼とは年齢も近いし妙にウマが合ったんだよ。でもまさか10年以上に渡って作品作りのパートナーになるとは思わなかったなぁ。俺は元来、漫画の原作については懐疑的だったんだけどこの時の作業の経験で1+1=2ではなく3にも4にもなることがわかってちょっと考えを変えたんだよ。
(ま)「家庭の事情」は最初ビッグコミックオリジナル増刊に掲載されたんですよね。
(辰)うん、一回だけのはずだったのに意外と好評で毎回掲載のシリーズになったんだよ。こうなるとこちらが受け取ったシナリオをグ〜ンと膨らまして描いた漫画を、今度は西氏がさらにふくらましてシナリオにして返してくるようになりどんどん展開していき楽しかったね。
(ま)そうこうしているうちにビッグコミックオリジナル増刊がビッグコミックスペリオールとして創刊されたんでしたね?
(辰)で、読みきりだったものが新雑誌の連載陣のひとつになって当人もびっくりしたよ。
(ま)すごいじゃないですか。人気も出て単行本化もされたんでしょ?
(辰)いや、数カ月で終わった。
(ま)はぁ?
(辰)前述の林さんが病に倒れ、かわりに新編集長がやって来て、その人から一度会いたいといってきたんだ。で、そこで言われた言葉が「ちょっと休んでくれる?」
(ま)それ連載打ち切り通告ですね。
(辰)うん、この「ちょっと休んでくれる?」ってセリフを前にも聞いたような気がするなぁと思ったら、以前「マンガくん」に連載していた「サイボー牛ウッシー」が同じような終わり方をしてるんだよ。あの時も今回のように「マンガくん」が新雑誌「少年ビッグコミック」になり、やってきた新編集長がこう言ったんだよ。
(ま)ってことは、その時の少年ビッグコミック新編集長とビッグコミックスペリオール新編集長は同一人物ですか?
(辰)そーゆーこと。たまたま巡り合わせなんだろうけど相性が悪いのかなぁ。その後編集長はやめて他の編集部にうつったらしいけど知らないよ。もうそろそろ定年かな。でも二度あることは三度あるっていうからもう一度どこかで会うかもね、あんまり会いたくないけど。
(ま)あのぉだんだん漫画の原作の話じゃなくなってボヤキになってますけど。
(辰)ごめん、話を元に戻そう。
(ま)西氏以外と組んだ事はないんですか?
(辰)そ、それが生涯に一人だけ彼以外の男性がワタシを通り過ぎていったんです。
(ま)な〜にわけのわかんないこと言ってるんですか?
(辰)森田曉という人の原作で「本の探偵」シリーズをビッグコミックオリジナル増刊で何作か描いたのだ。
(ま)たしか古い本を探しながら事件に巻き込まれるストーリーでしたね。
(辰)うん、この人の原作はシナリオというより資料の羅列と取材メモみたいなものでそのままでは漫画になりにくいものだったよ。そんなもんだから担当の長崎編集者といろいろ再構成したんだが、このとき長崎編集者が原作は気にしなくていいから大きく変えて結構ですというんだ。しかしその言動のあまりの容赦なさに、もしかしたらこの森田曉という人と長崎編集者は同一人物ではないかと疑ったもんだよ。一度も顔合わせもなかったしいまだにこの点は疑ってるんだよ。
(ま)う〜む、ミステリーですね。でも漫画家と原作者ってしょっちゅう打ち合わせてるものなんですか?
(辰)いや、それもいろいろで何年も連載しながら一度も会わない事もよくあるらしいよ。俺と西氏の場合のように密に連絡をとりあうほうが稀らしいよ。編集と打ち合わせる前に二人で事前打ち合わせをしといてこちらのペースに編集を巻き込む作戦だから、担当編集者も大変だよな。
(ま)やなコンビですね(^-^)
(辰)でも原作つき漫画を描いてみて新たな発見もあるんだよ。たとえば同じテーマでもたぶん自分だったらこうしただろうけど、なるほどこうやる方法もあったか〜なんてね。これは西氏もいくらかは思ってるみたいだけどね。
(ま)作風にも変化があらわれましたか?
(辰)いや、それよりも自分でも漫画の原作を何本か書いたんだよ。
(ま)それは初耳ですよ。どんな作品ですか?
(辰)書いたことは書いたんだけど人に見せるのは恥ずかしいので当時背景を手伝ってもらっていた若者に見せて、コンビを組んでデビューしようと誘ったんだよ。で、原作原稿を渡してしばらくして打ち合わせと称して会ったんだよ。
(ま)で、どうなりました?
(辰)面白くないから没!って言われちゃった。
(ま)そうでしょうねぇ。
(辰)なにが、そうでしょうねぇだよ!プンプン!
(ま)やっぱり漫画のほうが向いてますよ。だからその後もずっと西氏とのコンビは続いてるんでしょ。
(辰)うん、その後家庭の事情は竹書房マンガライフオリジナルに移って単行本も3巻出て無事に完結したのだ。この間の経緯は単行本のあとがきに詳しく書いてあるので興味のある者は探すように!
(ま)そして次の作品がさとみ派遣伝ですね?
(辰)こちらは6年余続いて完結したのだが単行本は出てないのだ。不況の影響かのぉ。
(ま)まぁいいじゃないですか、その次に恋のエリ好みが始まったんだから。
(辰)うむ、不況打開の為にも応援頼むぞ。
(ま)不況は関係ないと思いますが、まぁ頑張ってくださいね。


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