大胆な対談・第六部「コップの中の4コマ漫画ブーム」

(辰)てなわけでコップの中の4コマ漫画ブームだ。
(ま)また、いきなり何ですか?
(辰)知らないだろうが80年代に4コマ漫画ブームがあったんだよ。漫画界の中でもひっそりと4コマ漫画のブームが。そう、コップの中の嵐程度のブームだけどね。当時は4コマ漫画は絶滅寸前で、新聞紙上の古い漫画家が描いた面白くない漫画=4コマ漫画というイメージがあったんだよ。それが突如4コマ漫画誌が出てきてね。
(ま)で、ブームにのったんですか?
(辰)ちがうよ、描き手にとって4コマ漫画は非常に面白いものなんだよ。でも当時の状況ではとてもそんな企画は通らなかったんだよ。だからそれまでは4コマじゃないいわゆるギャグ漫画を描いてたんだよ。それがこのブームだろ嬉しくてスケジュールの許す限り描いてたよ。
(ま)4コマ漫画作品では、たしか漫画サンデーで連載を?
(辰)うん、われら婦夫(ふふう)という作品だ。実は、これの掲載が決まった後で編集部から電話がかかってきて漫画サンデー創刊20周年記念漫画賞を受賞したというんだよ。そんなもの応募したおぼえもなかったし、そんな賞があったのも知らなかったんだから、びっくりしたよ。
(ま)ちゃんと応募した人に悪いじゃないですか?
(辰)うん、それはそうだけど編集部がそう言うんだからしかたないよ。あまりいい作品が集まってなかったのかも知れないね。それに受賞の賞金が原稿料より多かったので受賞することにしたんだよ。
(ま)それって、カネに目がくらんだんですね。
(辰)そ、そんなことないよ・・・若手漫画家の立場は弱いから編集部のいうことは・・・
(ま)また人のせいにして。ここは漫画サンデーの関係者も見てるらしいですよ。
(辰)まぁ、それはインターネット黎明期ということで許してほしい。
(ま)何を、わけのわからないこと言ってんですか!
(辰)てなわけで、われら婦夫(ふふう)は8年間400回の長期連載になったんだよ。これは自分でも気にいってて代表作といえるかもね。
(ま)すごいですね、産まれた赤ちゃんが小学三年生になる期間の連載ですか。
(辰)うん、同じページ数でも4コマまんがの方が倍は大変だから終了した時は達成感と脱力感が入り混じった気持ちだったね。そういえば最終回で思い出したけど・・・
(ま)何ですか?
(辰)たしか、おだ辰夫先生の次回作に御期待くださいと記されてたけどどうなったんだ?
(ま)そ、そんな事今頃言ってもしかたないでしょ。
(辰)そうだよな、こんなことよくある事だし気にしててもしかたないか。それに当時の編集長ももういないし
(ま)こう聞いてると漫画の連載は案外簡単に始まって簡単に終わるんですね。
(辰)うん、人生そのものって感じかな。
(ま)なんか、たそがれてますね。何かあったんですか?
(辰)え〜と、せっかくだから4コマ漫画誌についても触れておこうか。この分野はあまり漫画愛好者にも注目されていない分野だから、歴史の証人として発言しておくよ。
(ま)なんですか、急に偉そうにして。
(辰)芳文社のまんがタイムがこのブームの火付け役だと思うよ。ある日芳文社の竹田編集者から依頼の電話がかかってきて会ったんだよ。それまで芳文社とは付き合いがなかったのにどうして電話番号がわかったのかと思ったら電話帳で調べたって言うのには驚いたよ。なんてストレートなんだってね。いっぺんで彼に好感を持ってすぐに打ち合わせをしたんだよ。
(ま)それがまんがタイム、まんがタイムオリジナルで15年間続いたあったか家族ですね。
(辰)うん、正直なところこんなに続くとは思ってなかったよ。それに最初俺が用意したどれみファミリーというタイトルが没になり(これは後に北陸銀行のリーフレット用漫画に使った)、編集部が用意したあったか家族に決まったのでちょっとしょんぼりしてたんだよ。でも今になってみるとこれの方がよかったね。そういえば、後にあったか家族という名称の肌着が売り出されたことがあり肌着が送られて来たこともあったなぁ。
(ま)芳文社では他には?
(辰)まんがホーム、まんがタイムジャンボ、ギャグまん、まんがタイムファミリーなんかに、オタフク、けじめまして、いつでも夢を等いっぱい描いてたなぁ。
(ま)他誌の4コマは?
(辰)漫画ゴラクの愛のだんちっちかな。シリーズ連載だったけどかなり長期にわたった連載だったよ。そうそう竹書房のまんがライフとまんがライフオリジナルにも希望家の人々、とんでも母さん等を連載してたね。
(ま)じゃあ80年代は、漫画サンデー漫画ゴラク、まんがタイム、まんがライフを中心に4コマ漫画家としての活動をしたわけですね。
(辰)うん、その他にも短期ものはたくさんあるけどこれらを中心にしてたよ。だってその他の雑誌の多くはなんとなく4コマ漫画がブームらしいし、こいつよく見かける奴だからひとつ頼むかなんて態度なんだもん。原稿渡す時でも封筒の中を確かめもしないで持ち帰る人もいたんだから。もう少し程度がよくてページ数だけ確認するタイプ。ついでに内容も確認してほしいよな。なんといっても編集者は読者第一号だから漫画家としてもその反応が気になるわけだよ。
(ま)編集者も忙しいからきっといちいち見てらんないんですよ。
(辰)だって、それも仕事のうちだろ?
(ま)あっ、編集者批判してますね。
(辰)ち、ちがうよ。ただの感想だよ。
(ま)たしか雑誌以外では新聞にも連載してましたよね?
(辰)うん、東京新聞夕刊のタンポポちゃんだ。
(ま)いかにもってタイトルですがこれも新聞社が用意したタイトルですか?
(辰)自分で考えたんだよ!
(ま)なるほど、以前より大人になったんですね(^-^)
(辰)あ〜っ、馬鹿にしてるだろ!迎合してると思ってるんだな!こうみえても4紙に連載されたんだぞ。たしか中日新聞、北海道新聞、西日本新聞、それに東京新聞だ。でもこれには深い落とし穴があったんだ。
(ま)ど、どんな?
(辰)4紙掲載だから4紙分原稿料が出ると思ったらそんなことはなかったんだ。同じ内容の物を配信するんだから当然といえば当然だけどね。
(ま)なんだかんだいいながら原稿料についてはこだわってますね。
(辰)この連載で一番印象に残ってるのは新聞社の人に「ワク線が太すぎる」と言われたことだな。内容が面白くないと言われればもっと面白くしようと頑張るがワク線の太さに文句つけられたら頭にくるよな。
(ま)そんなもんですか?
(辰)そんなもんだよ。いわば描線はその漫画家の生身の姿なんだからね。それをなんとかしろと言われるのは、女優に「おまえの顔は悪いからなんとかしろ」と言うのと同じだぞ。
(ま)よくわからない例えですが女優の顔なら整形すれば・・・
(辰)なに〜っ、俺に顔を整形しろっていうのか〜!
(ま)そ、そんなこと言ってないですよ〜ちょっと休憩しましょう。


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