大胆な対談・第五部「三人集まれば三人社」

(辰)てなわけで三人社結成だ。
(ま)てなわけってどんなわけですか?
(辰)おだ辰夫、かたおか徹治、高岡凡太郎(アイウエオ順)の三人で作った会社もどきだよ。
(ま)三人で三人社ですか...あまりと言えばあまりな名称...
(辰)巣鴨の一階がパチンコ屋で二階がキャバレーという恵まれた環境のビルの8階に事務所をかまえたんだよ。
(ま)何のために?
(辰)それは仕事をがんばるためにだよ。イメージとしてはスタジオゼロだな。
(ま)スタジオゼロと言うとその昔に新宿で赤塚、石森、藤子、つのだ等の面々が集まったアレですね。だいぶスケールがちがうような気もしますが。
(辰)気持ちだけだよ。なんとなく集まって仕事してみたかったんだよ。
(ま)じゃあ、共同作業なんかも?
(辰)いや、それはない。それぞれ勝手に活動していたのだ。例え誰かが忙しくても無視してたよ。かたおかは一応劇画(懐かしい言い方だね)だったから作画に一番時間がかかっていたけど、締めきり間際で苦しんでるかたおかを置いて俺と高岡でよく落語会に行ったりしてたよ。
(ま)案外冷たいんですね?
(辰)それ以前に、かたおかの原稿を手伝ってやった事があってね、野球場のスタンドに主人公がいるシーンでその周りに人物を描いてくれといわれたんだよ。普通に描いては面白くないので主人公にオシッコをかける奴や裸のブスを描いて盛り上げてやったんだよ。その時は描き直す時間もなかったのでそのまま印刷されたんだけど愉快だったなぁ。それ以来片岡は俺の手助けを断わるんだよね。
(ま)当然だと思います。
(辰)そういえば高岡凡太郎と合作したことがあるよ。プレイコミックかなにかだったと思うけどバラエティページを頼まれてね。ペンネームどうしようかと言うことになって付けたのがギャグ25。丁度当時のソ連空軍ミグ25が着陸した事件があった時だったんでね。
(ま)そんなの、今では誰も知らないですよ。
(辰)そんな時だよ水島新司先生が野球の試合で骨折されたのは。
(ま)トウトツに一体何ですか?
(辰)当時マンガくんという雑誌に球道くんを連載されていたんだよ。それが骨折で描けなくなって編集部は困ってたんだ。その時副編集長だったのが例のコーヒーか紅茶かの林さんだよ。
(ま)それで穴埋めに原稿依頼があったと。
(辰)そーゆーこと。そこで描いたのがサイボー牛ウッシーという4ページ読みきり漫画だ。それが結構好評で連載になったんだよ。
(ま)意外に簡単に連載って始まるんですね。
(辰)うん、たいていの場合なんとなく始まるんだよね。とりあえず数回ってのが何年も続いたりするからね。その逆で「先生の作品がないとウチの雑誌はダメですから」なんて始めたのにすぐ終わったりね。
(ま)なんかはっきりしないんですね。
(辰)ああ、俺はそーゆーのいやなんだよ、きちっと何回と決めたいわけ。まだまだやるつもりなのに急に「次回で終了です」なんて言われるとがっかりするよね。作品としていろいろ考えてるんだから。いつだったか忘れたけどある連載の企画がきた時こちらから回数を指定したら、いまだかってそんな事を言った漫画家はいないと言われたよ。生意気な奴と思われたんだろうね。でも漫画誌じゃあないところはキチンと事前に決めるから、もしかしたら漫画誌だけの問題かもしれないけどね。また編集者が最終回を告げる時凄く気の毒そうにするんだよ。まるでクビになるみたいにね。別に俺はあんたの会社の社員じゃないんだからいいんだよ!って言いたいね。言わないけど。
(ま)言ってるじゃないですか。
(辰)でも三人社時代は楽しかったなぁ。
(ま)いちばん印象に残ってることは?
(辰)出社(^-^)第一日目に皆で一日かけて掃除したことかな。あれほど気持ちのいい汗をかいた日はなかったな。
(ま)皆さん暇だったんですね?
(辰)仕事を選んでたんだよ。なんでもかんでも引き受けりゃいいってもんじゃないだろ。高岡なんか趣味のプロレス観戦を最優先にしてたもんな。
(ま)はぁ。
(辰)俺はその当時自転車で日本一周に凝っててそれを最優先にしていたよ。輪行仕様の自転車で一週間くらいずつ走り日本地図に走破したルートを赤く塗りつぶして壁にはってたんだ。
(ま)やっぱり暇だったんだ。
(辰)いや、ちゃんと仕事に結び付けたんだから誉めてくれ。愛読していた月刊サイクルスポーツに企画持ち込みをして採用され、それから数年4コマ漫画を連載したのだ。
(ま)かたおかさんはどんな仕事を?
(辰)コミカライズ作品の他には官能ものを描いてたな。彼も自分の趣味をいかしてたのかな。
(ま)かたおかさんがこれ読んだら怒りますよ。
(辰)大丈夫、彼はインターネットに興味ないみたいだから。
(ま)そんな楽しい三人社は2年で解散されたそうですが原因は?
(辰)不動産屋との契約が切れたから。
(ま)それだけですか?
(辰)うん、それにかたおかも高岡も埼玉に引っ越して巣鴨まで通うのが面倒になったみたいで。
(ま)全然ドラマチックじゃない幕切れですね。
(辰)人生ってのはそーゆーもんだよ。


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